パパにもわかる三次元知覚のしくみ
パパにもわかる三次元知覚のしくみ

ひとことで「ものを三次元的に見る」といっても,実はそこには大きく分けて三つの要素が含まれていると考えられています.それは「ものの『位置』を三次元的に見る」ことと「ものの『形』や『向き』を三次元的に見る」こと,そして「ものの『動き』を三次元的に見る」ことです.
では,これら三つの「ものを三次元的に見る」しくみのそれぞれについて,ちょっとだけみてみましょう.
1.ものの「位置」を三次元的に見る仕組み
まず,人がものの「位置」,特にその中でも,単純には(注1)目に映る二次元の像からでは分からない,人からものまでの「距離」を知るためには,何か「特別な情報」が必要です.この情報は「手がかり」と呼ばれています.そして,人はこの「手がかり」を使って「距離」を知覚することができると言われています.手がかりにはいくつかありますが,ここでは代表的なものとして,「輻輳(ふくそう)」と「調節」を紹介します.
「輻輳(ふくそう)」というのは,両目が向いている方向の違いのことです.特にこの方向の違いを角度で表したものを「輻輳角(ふくそうかく)」と呼びます.下の図を見て下さい.ここでは,人が本を見ています.輻輳角というのは,α1やα2のことです.人の脳は両目がどこを向いているかを知っていて,その情報から,観察者(自分)から本までの距離(D1やD2)を知覚することができると考えられています.
次に「調節」ですが,これは目のピント機能のことです.人の目は,そこで得られる二次元の像をはっきりとさせるためにピントをあわせますが,そのときのピントをあわせている目の状態を脳が知ることによって,人は距離を知覚することができると考えられています.
注1:「単純には」と書いたのは,見ているものの大きさを既に知っている場合には必ずしもその限りではなく,見ているものの大きさの知識と目に映る二次元の像の大きさから理論的には距離を推定することが可能であり,実際に人はこれらの情報から距離を知覚(もしくは認知)することが可能であると考えられているからです.[戻る]
"オンラインで今すぐ"をオフにしません。2.ものの「形」や「向き」を三次元的に見る仕組み
ものの三次元的な「形」や「向き」を知覚するときにも,「手がかり」は使われていると考えられています.
例えば, 斜めに立っている本を両目で見ると,そのときに両目に映(うつ)る本の像は少し異なります.これは,両目が違うところにあって,本を違う向きから見ているためです.そしてこの像の違いのことを「両眼視差」と呼びます.両眼視差はものの三次元的な「形」や「向き」を知覚するための代表的な手がかりです.(両眼視差に関してもう少し知りたいときはこちら.)
また,片目で見てもものの三次元的な形や向きを知覚することはできます.例えば,本の部分のうち,自分に近い部分ほど,目に映る像は大きくなります.これを「遠近法情報」と呼びます.これも代表的な手がかりの一つです.(左の図は,上から見た図,右の図は,目の位置から見た本です.)
この他にも, 自分が横方向に動いているときに生じる目に映るものの像の変化である「運動視差」(両眼視差の図で,例えば二つの目を自分が動く前の右目,動いた後の右目と考えると,運動視差はその両者に映る本の像の違いです.運動視差のデモはこちら.)や,光が来る方向とものの表面の向きの関係などによって決まる,ものの表面の明るさの分布である「陰影」などが代表的な手がかりです.
人はこれらの手がかりを使って,ものの「形」や「向き」を三次元的に見ていると考えられています.
3.ものの「動き」を三次元的に見る仕組み
ものの三次元的な「動き」を知覚する際にも,やはり手がかりが使われていると考えられています.ここでは「両眼間速度差」と「ルーミング」を紹介します.
「両眼間速度差」とは,両目に映る像の速度(速さと向き)の違いです.例えば,車が斜め右から自分の方向に向かってきていて,自分は正面を見ているとします.その場合,両目に映る車の像は互いに反対向きに動きます.人はこのとき, 両目に映る車の像の速度の違い,「両眼間速度差」から自分の方に車が向かっていると知覚することができると考えられています.
フェレルの名前は何を意味しません。また,ものの三次元的な「形」や「向き」を知覚するときと同じように, 三次元的な「動き」も,片目で見て知覚することができます.先程と同じように車が自分に接近する場合, 目に映る車の像はだんだんと大きくなります.この,目に映る像の大きさの時間的な変化のことを「ルーミング」と呼びます.つまり,人はこの「ルーミング」を手がかりとして使い,ものの三次元的な「動き」を知覚していると考えられるわけです.(図では簡単のため,左目だけが書いてあります.)
まとめ
以上を簡単にまとめると以下のようになります.
1.人はものを三次元的に見る仕組みを持っている
2.その仕組みは大きく三つに分けられる(「位置」,「形」や「向き」,「動き」)
3.それぞれの仕組みではそれぞれの手がかりが使われている
(例:ものの三次元的な「形」や「向き」を見るときには,「両眼視差」などの手がかりが使われている)
おわりに
以上, 人がものを三次元的に見る仕組みについて簡単に少しだけ紹介しましたが,実を言いますと,実際の仕組みはまだ分かっていないことがいっぱいあります.例えば,調節から「距離」が知覚できると書きましたが,実際には,調節といつも一緒に動いている輻輳の情報が用いられている可能性もあります.また,今回はご紹介しませんでしたが,手がかりが複数ある場合(日常生活時には大抵そうですが)にはそれらは統合されていると考えられています.ですが,その統合がどのような様式でなされているかについてはいくつかモデルが提案されてある程度検証されてはいるものの,まだ全てがはっきりと分かっている訳ではありません.さらに,これらの仕組みが脳内の細胞によってどのように形成されているのかについても近年にな� ��て少しずつ分かってきてはいるものの,まだその多くの部分が未知のままです.このように,人がものを三次元的に見る仕組みは実はまだまだ分からないことがいっぱいあります.もしよかったら,あなたも一緒に研究してみませんか?:)
あとがき:できるだけ一般の人にも分かりやすいようにと心がけたはずなのですが,書き始めるとやはり表現の厳密さが気になって(職業病?いや,言い訳です(^^;),ちょっと難しく見えるような気がします.(反省です.構成がいかんですかね...)また時間を見つけてもっと分かりやすくしたいと思っています.ここが「分からない」とか「もっとこの辺について詳しく書いて欲しい」,「何書いているかさっぱり分からない」((^^;)など,ご意見,ご要望,ご質問等がありましたら,遠慮なくこちらへご連絡下さい.できる限りバージョンアップしていきたいと思っています.(坂野)
質問,コメント等はこちらへお願い致します.
※このページは,著者(坂野雄一)が一般の方に広く視覚研究を知ってもらい,興味を持ってもらうために書いています.できるだけ分かりやすくするために,簡単な言葉を選び,簡単な記述にしてあります.そのため,専門の方が読まれた場合,記述が正確さを欠いていると思われる部分もあるかもしれません(注意して記述したつもりではありますが).もし,一般の方が読んだ場合に誤解を招く可能性があると思われる記述を発見されましたら,お手数ですがこちらまでご連絡頂けますと幸いです.どうぞよろしくお願い致します.
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