Web出版環境とは何か:DD研参加記(3)
Web出版環境とは何か:DD研参加記(3)
前回は、EPUB3によって「Web出版環境」が完成した、ということを述べた。これは印刷本の電子的複製とは次元が違う、デジタルドキュメントとしてのE-Bookの潜在力が全面的に開放されたことを意味する。JLreqを含むEGLSがEPUB3に盛り込まれたおかげで、われわれは幸いにしてこの革命にそう遅れずについていくことが可能となったわけだが、そのために知っておかなくてはならないことが多い。
はじめに:本の仮想化を完成させるEPUB3
Web出版環境の意味は、はんぱでなく大きい。同じ「コンテンツ」を扱っていても、これは従来の出版の発展の延長上にはないからだ。E-Bookは印刷本のようなオーラを放っていないし、文字も組版も精巧さ、美しさに欠ける。オリジナルが少ない、ということは、もっぱら印刷出版物の影として流通しているわけだ。にもかかわらず、米英では出版市場をリードする存在となった。それはなぜか。じつはコンテンツを見ていたのではまったく分からない。
たしかにアプリは、一見して本のデジタルコピーとしか見えないE-Bookとは違って動画や音声を扱え、対話的だ。これこそ21世紀の電子書籍だという人もいる。しかし、この技術は20年近く前にもあり、CDで提供されていた。これはよく似ているが違うと考えたほうがいい。いや違うものなのだ。なぜならWeb出版という真の意味でグローバルな環境にあって、すべての(静的・動的な)コンテンツは孤立しておらず、ネットワーク化され、ヒトと同じようにコミュニケーションのノードとして存在しているからだ。
ドライイレースマーカーは、マークがマークを奪うようになりますかEPUB3は、標準技術をベースにしたWeb出版環境を完成させるという意味で、歴史を画するものとなった。日本人にとっては「縦組・ルビ」機能が大きいのはもちろんだが、それはUnicodeと同様、われわれがコミュニケーションにおける大きな歴史の流れに乗るための、切符のようなものだった。それはまもなく空気のような存在になるだろう。では、大きな歴史の流れとは、どのようなものだろうか。
出版における制作(本づくり)と共有(流通・販売)
出版においては、ある形をイメージして制作が行われ、そしてそれが公刊されることよって社会化される。これは一連のプロセスであり、プロダクションとディストリビューションの2つのベクトルで構成される。便宜的に、これをタテ方向の深化・高度化と、ヨコ方向の展開と呼んでおこう。タテでは、素材(ことばや図像)の編集ー意味的関連の構造化と表現ーにおいて、記録・再生される知識の容器(本)とともに発展してきた。ヨコ方向は流通・配送ネットワーク、書店と図書館がある。
今日の印刷本の原型は古代末期に冊子写本(codex)として誕生した。15世紀ドイツで活字印刷術が生まれ、16世紀にヴェニスで出版ビジネスが生まれて以来、それは量的に拡大してきただけで、大きな変化はなかった。その後、産業としては共有性に優れた放送・通信系メディアにマスメディアの座を空け渡したが、知識の容器としての本、その担い手としての出版業が、権威と影響力を失ったことはなかった。とはいえ、ビジネスとしての出版が成長するためには、グラフィック情報の大量生産に活路を見出すしかなかった。日本において雑誌とマンガが、優に出版の半分を占めるようになったのはそのためである。
これらの在来メディアは、一長一短を持っていたので共存し得た。放送は時間に依存した軽い情報を遠くに飛ばすことが出来たが、物理的実体となって機能する、重い(構造的・意味的)情報を運べなかった。通信は1対1の、出版と放送は1対Nのコミュニケーションとして発達してきた。デジタル化によってまず通信と放送の技術的境界が失われ、出版の版下もデジタル化されたが、通信と出版の融合は版下のデータ送信の域を容易に出なかった。単純化すると以下のようになる。
- 重いメディア(本) →受信機不要 標準不要
- 軽いメディア(放送) →受信機必要 国家規格
- メタメディア(Web) →受信機必要 ユニバーサル規格
今日、情報の共有手段として定着したWeb (HTTP/HTML)は、研究者のための「ハイパーテキストのネットワーク」として構築された。当初、表現の深さはなかったものの、何よりも時間・空間に依存せず、知識情報の多次元的な構造を明示化し、操作可能にした点で、人類史上空前のものだった。ハイパーテキストは、言葉とテキスト、コンテキストを記録し、表現するという意味で、ドキュメントの究極の姿といえるが、それがインターネットで展開されることになったのである。以来、「深さと広がりを持ったフラクタルな知識空間」として進化する宿命を負っている。
どのように私は、GroupWiseに新しい電子メールアカウントを作成するのですかオフィス、基幹システム、研究開発のネットワークで行われる、あらゆる形の情報処理は、インターネットに吸収される方向にある。どんな高度なITも、インターネットが提供する広がりを利用できなければ、そうしたものに勝てない。ついには、コンピュータもインターネットの一部となり、インターネットがコンピュータになるという事態が進行している。HTMLは、XMLを通じて、アクセス可能なあらゆるネットワーク上の情報資源と結びついた。モバイル・インターネットは最新の到達点といえる。重要なことは、進化(つまり既存の情報関連技術の吸収)をやめないHTML、究極の(メタ)データ記述言語のXML、あるいはグローバルな文字コードであるUnicodeなどは、企業からも国家からも独立した、完全にユニバーサルな技術規格で� ��るということだ。
本のネットワークとネットワークとしてのE-Book
音楽やビデオに比べ、じつは本こそが最もデジタル化が難しい商品/サービスだったことは偶然ではない。19-20世紀の機械文明の産物である通信・放送系メディアと異なり、本だけは何の規格も必要としない、非集中型のメディアだったからだ。ワープロなどのオフィスドキュメントがそうであったように、電子本の流通範囲は規格に依存する。日本の出版における「出島」であったケータイ電子書籍は、その昔にあったビニ本や自販機本のように、市場はつくったが、ニッチ以上にはならなかった。その意味で、メーカーが、出版業界が、そして政府が「標準」に関心を持ったことは自然であった。
デジタルコンテンツはインターネットの中で驚異的な力を発揮する。タテ方向とヨコ方向での発展には限界がない。そしてWebは「本+動画+アプリ+SNS」という段階に達したわけだが、この「本」は単一のコンテンツとしてだけでなく、構造体として考えることもできる。また様々な特徴で分類されたグループの一つと見ることもできる。ただし、これを本として扱うためには、本のように軽く、薄いデバイスが必要だったし、出版環境として機能させるためにはオンライン・ストアが必要だった。早くから商品としての本の性質に注目していたアマゾンは、臨界3条件(フォーマット標準、モバイルデバイス、Webサービス)を満たしたと判断して、2007年にE-Book市場の創造に乗り出した。
アマゾンが採用したフォーマット(Mobi)は、HTML(つまりEPUB)データの取り込みも容易で、それらとともに変化できるようにつくられていた。技術の発展を見越した(独自規格にこだわらない)対応は見事で、最近、Kindle FireとともにHTML5+CSS3(間接的にEPUB)に移行している。じつは、これまで本当の意味でのWeb出版環境を構築し、商売できていたのはアマゾンだけだった。HTML5/EPUB3パラダイムは、その環境を普遍化するものだ。これまでiPadをはじめ多くのライバルがKindleとの差を詰められなかったのは、デバイスやUIのせいではなかった、ということだが、この話は別の機会にしたい。(鎌田、2011-11-27)
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