2012年5月1日火曜日

英語教育の哲学的探究2: 05/2010 - 06/2010


■Karen Johnson先生と吉田達弘先生に深く感謝

2010年5月19-20日に兵庫教育大学で開かれたKaren Johnson先生のセミナーは素晴らしいものでした。Johonson先生、およびこのセミナーを開催してくれた吉田達弘先生(兵庫教育大学)に深く感謝します(吉田さん、本当にありがとう。そしてお疲れ様でした)。ここでは私がそのセミナーで私なりに学んだことをお伝えします。

■端的に問います。よい教師とはどのような教え方をしているのでしょう。

Johnson先生は教師教育(teacher education)の専門家です。このセミナーでも「よい教師を育てる」あるいは「自らがよい教師に成長する」にはどうすればよいのかというのが実践的なテーマとして通底していました。この記事ではそのエッセンスを私なりにまとめてましたので、ご興味のある方はぜひお読みください。

■すぐに「授業で何をすればいいのですか」と問わない

とはいえ、Johnson先生は、いつでもどこでも誰にでも有効な魔法の処方箋を提示するわけではありません(このあたりの誤解は未だになくなりません。ぜひ『リフレクティブな英語教育をめざして』をぜひお読み下さい)

Johnson先生も、自分のセミナーで「やらないこと」(Not)として次のように言っています。

Not a methodology or an approach for how to 'do' L2 teacher education, but rather, a theoretical framework for how to think about what we do in L2 teacher education. Karen Johnson先生配布資料(2010.5.19)より

というわけでいきなり特効薬を得ようとするのではなく、以下、しばらく考察にお付き合いください。

■「教育方法学」(HOW)を「教育内容学」(WHAT)と分離させてはいけない

日本の一部では「教育方法学」と「教育内容学」を分けてしまって、相互不可侵状態にすることを奨励する学問政治がありますが、教育の方法(HOW)と内容(WHAT)を分離させてしまうことは、教師の力量形成にとって逆効果だとSociocultural Theory/Approachは捉えます。


どのようにscantronsが評定され
What is learned is shaped by how it is learned.

The interdependence between what is taught and how it is taught is crucial to the processes of learning-to-teach and the development of teaching expertise.

Karen Johnson先生配布資料(2010.5.19)より

Learningにおいてもteachingにおいても、何をどのように教えるかというのは不即不離で、その連関をまったく考えずに「方法学」や「内容学」を突き進めても学ぶことや教えることの実践は改善しないというわけです(もちろん準備段階として、二つを分けて行うことは有効でしょうが)。

■WHYとしてのOrienting

Johnson先生は、"Orienting"についても強調しました。

Orienting - situate the concept, skill, or content you are teaching in such a way as to make all of its features salient and relevant to the students; help them relate to it in some concrete or personally relevant way. This will help them see the 'big picture' and relate what they already know to what you are going to teach them. Karen Johnson先生配布資料(2010.5.20)より

質疑応答の時に、私はこの"orienting"は、learningとteachingにおけるWHY -- WHATとHOWとつながったWHY --と考えていいかと尋ねましたところ、Johnson先生もこれに同意してくれました。

そうしますと学ぶ時および教える時では、WHY-HOW-WHATを一つのつながりにすることが重要だとなってきます。

■優れた指導者はWHYから始め、HOW、WHATへと進む

そこで私が思い出したのが、以前に見た講演です。なぜマーチン・ルーサー・キングやスティーブ・ジョブスといった人は多くの人を引きつけるのか、というのを単純な原理で説明した講演です。

(大きな画面で、transcriptも読みながら視聴したいなら

凡庸な指導者は、WHATばかりを説き、HOWやWHYを省略してしまいがちだが、優れた指導� ��はまずWHYを、情熱を込めて語る。そうして人々の心に火をつけてから、それぞれの人にHOWを伝えそれぞれの人にそれぞれの形で参加してもらう。凡庸な指導者が最初に言うWHATは最後にしか言わない、というのがその講演の要旨といえるでしょうか。


免税、ナイアガラフォールズ、カナダ

■教え方の四類型:学びを促す教え方とは?

そうしますと、学びと教えにおいては次の四つの類型があるとまとめられるかと思います。

(1) WHAT

(2) WHAT + HOW

(3) WHAT + HOW + WHY

(4) WHY HOW WHAT

教えることで例を取ります。

(1)のWHATとは、教える内容だけをいきなり最初に提示して、それだけで授業が終わってしまうような教え方です。「はい、今日の授業は受動態をやります」と言って板書と説明を繰り返し、「あ、そろそろ時間ですね。練習問題は家でやってきてください」と言って教室を去るような授業です。

(2)のWHAT + HOWとは、(1)のように説明(WHAT)から入り、授業の終りの方でその内容についての練習問題(HOW)を生徒にやらせるような授業です。ただここでのWHATとHOWは木に竹をついだようなものです。WHATとHOWは時間的には連続していても、生徒の心の中では連続していません(その連続と不連続の関係を「+」という記号で私は表そうとしています)。練習問題をやる段になって生徒は「あれ、どうするんだったけ?」と困惑したり、内容説明をしている時の教師の心にも次にどのようなHOWの展開をするかの考えがなく、練習問題のページを開いて「あ、そうか。練習問題はこれだった」と思い起こしたりします。


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(3)のWHAT + HOW + WHYとは、(2)をやった後に、「皆さんが学んで練習したことは、実は○○のような時に使える・面白い・意義深い等々ものなのです」と言うような授業です。実は個人的思い出としては私の高校の世界史の先生がこのタイプでした。いや、正確にいうならHOWは殆どないままに、授業はWHATばかりでした。三学期の最後の授業でWHYを言ってくださったので私は「ああ、そういうことだったのか」と始めて世界史の勉強をする意義を得心しましたが、同時に「そのような意義は最初に、あるいは折にふれて言って欲しかった」と思わざるを得ませんでした。昔話をさらにするなら私の高校の数学の先生は(2)のWHAT + HOWだけでしたので、私が数学の面白さ(WHY)がわかったのは、私が大学院時代に統計学をマスターする必要から、紆余曲折の末、自分で高校の数学の参考書で自学自習した時でした。「高校時代に数学の面白さがわかっていたらな」とは今でも、いや、歳をとるほど残念に思っています。

(4)のWHY HOW WHATとは、原則としてWHY, HOW, WHATの順番で進むものも、三者が渾然一体となったものです。随時に生徒は「なぜこれを学ぶのか」「どうやればこれを学べるのか」「そもそもこれは何なのか」と刺激を受けて学びを深めてゆきます。私がこれまで見た授業がうまい先生方も、この(4)のパターンで授業を進めていたように思えます。

もちろん毎回の授業で(4)である必要もないかもしれません。WHYは学年、学期、あるいは単元の始めに強調するだけかもしれません。逆にWHY, HOW, WHY, WHAT, WHY...とどんどんとHOWやWHATを通じてWHYを深めてゆくような授業パターンもあるでしょう。

上記の四類型は言うまでもなく単純化した原理ですから、これを信条として機械的に適用するのではなく、原理を理解した上で、原則として心に留めながら、実践においては臨機応変に授業を行ってゆくというのが現実的なところでしょう。

■さまざまな実践をこの四類型の観点から分析してみる


私たちは授業だけでなく、プレゼンテーション、テレビ番組、商品売り込みなどさまざまに他人に働きかけ他人の思考と行動に影響を与えようとする実践を目にしています。それらの実践をこの四類型の観点からしばらく分析してみてはどうでしょうか。上のビデオを見てなぜこの四類型の観点が重要であるかを理解し(WHY)、さまざまな実践の観察で実際にどのような働きかけがなされているかを見取り(HOW)、そうしてはじめて自分はどんな授業案(WHAT)を作るべきかを考えるというアプローチの方が、いきなり授業案を書こうとするよりも有効ではないでしょうか。というのもいきなり授業案を書こうとしても、結局はどこかで見たような、自分の過去の授業の繰り返し、あるいは現在流行� �の授業の表面的な真似に終わりがちだからです。

「なぜ生徒はこれを学ばなければならないだろう」という問い(WHY)を、「指導要領に書いてあるから」「教科書にあるから」といった表面的で、学びの実践(HOW)や学ぶ内容の本質(WHAT)に結びつかないような答えでごまかしてしまわずに、ゆっくり考えることが大切かと思います。

Second Language Teacher Education: A Sociocultural Perspectiveをぜひお読みください

と、私の脱線が続きましたが、Johnson先生のセミナーでも使われた Second Language Teacher Education: A Sociocultural Perspective(Routledge, 2009)は読みやすく深い本です。どうぞお読みください(Amazon.comではKindle版もあります)。

最後になりましたが、改めてJohnson先生、吉田先生、兵庫教育大学の皆さん、そしてこのセミナーを財政的に援助したくださった兵庫教育大学に御礼申し上げます。学んだことを少しでも広げ、そして深め、よりよい社会をつくってゆきたく思います。



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